ピアニスト高瀬佳子を知ったのは15年ほど前のことで、それも彼女の夫君で作曲家である十河陽一氏から「こんなピアニストがいる」のようなことを聞いたのが最初だったと思う。当時われわれは、音楽外のこと、滅び行く京都の景観や自然を守りたい一心からの純粋な運動をしていて、そのことを通じて知り合ったのである。自分なりに美学・芸術学の立場からつねに「自然」というものに思いを致していたが、3人で音楽活動を始めてみると、互いの音楽的または音楽上の波長が合うのは、自然や自然性をベースにした共通の考えにあるらしいことが分かった。しかし、効果のための誇張や技術の名の下に心の自然な表現をなおざりにすることを避けることもまた決して容易ではない。普通に奏でたり、作ったりすることが簡単に美に結びつくというなら、芸術家の素養を持った人は結構いることになるだろう。 |